これまでに読んだ小説の中で本当に面白かったのはコレ

イニシエーション・ラブ 乾くるみ

イニシエーション・ラブ 乾くるみイニシエーション・ラブ(2004) 乾くるみ

(ストーリー)
ある若い男女のありふれた恋愛模様。
特に気にとめる作品ではないかのように見えるが、
後半になると読者は妙な違和感にさいなまれ始める。
ラスト一行でその正体が明かされたとき、
この作品は忘れがたい小説へと変化する。

(感想)
人がなぜドンデン返しを面白がるかというと、
それまでの自分の価値観をひっくり返されるからだ。

いかにも悪そうで「こいつがきっと犯人だ」と思っていた奴がじつは善人で、
逆に「この人はいい人だ」と思っていた奴が犯人だったりすと、
読者の中で価値観の転倒が起こる。

いかに自分が人の表面的なものしか見ておらず、上辺に騙されてきたか。
それを自分の実生活に照らして実感することになる。
そして味方だと思っていた人がじつは善人でも何でもなく
恐ろしい殺人鬼だと知らされ、人間の怖さを目の当たりにすることになる。
そんな体験は日常生活ではなかなかできないことだ。

犯人のことをずっと善人だと思い込んでいただけに、正体を明かされると、
犯人が予想を上回った大きさを持つ怖い存在に映るだろう。

ただ設定をばらしただけでは、ドンデン返しは効果を発揮しにくいのだ。

じつはふたりは血を分けた兄弟でした。
じつは全部夢でした。
というように作者があらかじめ作っておいた物語の設定をばらされても、
読者の価値観は揺るがない。ただ情報を無駄に隠しておいただけで終わってしまう。

社会通念をひっくり返すようなものでないとドンデン返しの効果は現れない。
世の中に蔓延している固定観念や、人々が抱いている一般的な思考に
異議を唱えるようでなくてはならない。

そしてそれを、やさしく諭すように正してやるのではなく、
カウンターパンチをくらわせるようなショック療法的なやり方で
読者にぶつけるのがドンデン返しなのだ。
つまりドンデン返しは、社会に対するアンチテーゼ・異論になっていないと
効果的には機能しない技法と言える。

ひとつ例書を挙げよう。
乾くるみ「イニシエーション・ラブ」
少し狙いすぎの感が無きにしも非ずな作品ではあるが、
ドンデン返しがきちんと社会通念に対するアンチテーゼになっている。
この本の読んでいる途中に感じる妙な違和感は、めったに味わえない面白体験だ。


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